弁護士コラム

この記事の
監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
  • 発信者情報開示請求
    個人
    2021年05月28日更新
    ログの保存期間は3か月!? 発信者情報開示請求を急ぐべき理由とは

    ログの保存期間は3か月!? 発信者情報開示請求を急ぐべき理由とは

    最近、会員制交流サイト(SNS)で誹謗中傷コメントに対して発信者情報開示請求をすると表明する有名人が増えています。実際に、ある女性タレントに対してインターネット掲示板に誹謗中傷のコメントをしていた投稿者について、その女性タレントが発信者情報開示請求を行って投稿者が特定された結果、刑事事件化されました。

    発信者情報開示請求はスピード勝負と言われています。それはなぜなのでしょうか。今回は、発信者情報開示請求を急ぐべき理由について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
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1、なぜ発信者会情報開示請求が必要なのか

SNSやインターネット掲示板などで「個人を特定するような情報をさらされた」「根も葉もないデマを流された」という場合は、発信者情報開示請求を検討すべきでしょう。しかし、なぜこの「発信者情報開示請求」が必要になるのでしょうか。本章では、その理由について解説していきます。

  1. (1)発信者情報開示請求をしなければならない理由

    発信者情報開示請求をしなければならない理由は、大きく分けて以下の2つです。

    ●損害賠償請求をするときに、発信者情報が必要である
    SNSやインターネット掲示板などの公の場で他人を誹謗中傷し、精神的苦痛を与えたり実害を生じさせたりすることは、民法上の「不法行為」にあたります。この不法行為をした者(発信者)は、損害賠償責任を負うため、誹謗中傷された側は発信者に対して損害賠償請求ができます。

    しかし、発信者がどこの誰なのかがわからなければ、損害賠償請求はおろか相手に連絡することすらできません。そのため、損害賠償請求をするには、発信者の氏名や住所などを特定する必要があるのです。

    ●刑事告訴するときにも、発信者情報が必要になる
    また、SNSやインターネット掲示板で他人を誹謗中傷することは、刑法上の犯罪にあたることもあります。たとえば、ある事件の犯人と決めつけて赤の他人の顔写真や個人情報をアップすることは名誉毀損(きそん)罪にあたる可能性があります。その他、「地震で近くの動物園からライオンが逃げ出した」とSNSで投稿し、動物園に問い合わせの電話が殺到した事件では、偽計業務妨害罪の疑いで投稿者が逮捕されました。

    このように悪質な投稿をされた場合には、相手方を刑事告訴することも考えられます。しかし刑事告訴しようにも、投稿者が特定されていなければ警察は捜査に乗り出さないことがほとんどです。そのため、刑事告訴するときも発信者情報が必要なのです。

  2. (2)IPアドレス開示請求~発信者情報開示請求までの流れ

    どんなに急いでいても、すぐに発信者の氏名や住所などの個人情報が分かることはありません。
    そもそも、ある人物がインターネットに投稿してそれが公開されるまでには、以下のような流れをたどっています。

    投稿者が、パソコンやスマートフォンなどの端末を使って投稿

    インターネットサービスプロバイダ(経由プロバイダ・以下「プロバイダ」)に情報が送られる(接続元IPアドレスなどのアクセスログが残る)

    SNSや掲示板などの投稿先のサイトのサーバーに情報が送られる(接続元IPアドレスなどのアクセスログが残る)

    SNSや掲示板などの投稿先のウェブサイトに投稿が表示される


    発信者情報開示請求をするときは、この逆のルートをたどることになります。発信者の情報を知るためには、投稿先のサーバー管理者やサイト管理者の持つ接続元IPアドレスなどのアクセスログと、プロバイダの持つ接続元IPアドレスなどのアクセスログの両方を照合する作業が必要となります。そのため、裁判所を介した手続きを最低でも2回は行うことになることは、心にとめておきましょう。

    ① サイト管理者にIPアドレス開示請求を行う
    まずは、サーバー管理者またはサイト管理者に、任意で接続元IPアドレスを開示するよう請求を行うことが考えられますが、任意にIPアドレスが開示されることはあまりありません。
    任意に開示されない場合には、裁判所にIPアドレス開示請求の仮処分を申し立てます。仮処分とは、通常の訴訟を起こして手続きをしている間に時間切れとなって手遅れにならないよう、通常の訴訟をする前に、仮に開示を受けた状態を作っておく保全手続のことです。

    IPアドレス開示請求訴訟は、判決が出るまでに時間がかかり、その間にプロバイダにアクセスログが消去されてしまうおそれがあるのです。サーバー管理者やサイト管理者に対して通常の訴訟を起こして接続元IPアドレスが開示されるのを気長に待っていては、プロバイダのアクセスログの保存期限に間に合わないため、1回目の開示請求では、迅速に開示を受けるために仮処分の手続を用います。

    ② IPアドレスからプロバイダを割り出す
    裁判所が接続元IPアドレスの仮処分命令の決定をすれば、サーバー管理者またはサイト管理者からIPアドレスやタイムスタンプの開示を受けられます。開示を受けたら、IPアドレスからプロバイダを特定できるサービスを利用して、投稿者が投稿に使ったプロバイダを割り出します。

    ③ プロバイダに対してアクセスログ保存を要請
    IPアドレスなどのアクセスログは、一定期間が経つと消去されてしまうのが実情です。そのため発信者情報開示請求の訴訟の手続をしている間に、投稿者のタイムスタンプやIPアドレスが消えないよう、プロバイダに対して接続元IPアドレスを含む、投稿者の痕跡の残るアクセスログの保存要請をします。アクセスログの保全要請は、任意で応じてもらえない場合は発信者情報消去禁止仮処分の申立てを裁判所に対して行います。

    ④ プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起する
    プロバイダへの発信者情報開示請求は、基本的に訴訟で行います。第1回の期日が開かれる前に、プロバイダは投稿者に対して、発信者情報を開示しても良いかどうか意見照会をすることが多いようです。投稿者が自分の情報を開示してよいと許可した場合には、判決の前に、原告に投稿者の情報が開示されることになります。

    ⑤ 投稿者の特定
    訴訟で勝ち、発信者情報を開示せよ、という判決が出ると、プロバイダは投稿者の氏名や住所などの情報を開示します。

2、発信者情報開示請求を急がなければならない理由

発信者情報開示請求に欠かせないIPアドレスですが、早く開示請求をかけなければIPアドレスが入手できなくなることがあります。そのため、発信者情報開示請求をするなら、急いで行わなければならないのですが、それはなぜなのでしょうか。

  1. (1)アクセスログの保存期間は3か月から半年程度

    アクセスログの保存期間は、プロバイダで6か月程度、スマートフォンのキャリア(携帯電話会社)の中には3か月程度のものも多くあります。そのため、自分あるいは自社に対する誹謗中傷の投稿を見つけても、発信者情報開示請求をしたときにはアクセスログの保存期限が切れて投稿者の情報が消えてしまっていて、投稿者の特定ができない危険があるのです。

  2. (2)IPアドレス・発信者情報開示請求に数か月かかる

    サーバー管理者またはサイト管理者に対するIPアドレス等の開示請求仮処分の申立てという1段階目の手続きを経て、プロバイダに対する発信者情報開示訴訟で勝訴判決を得るという2段階目の手続きにたどり着くまでに、最短でも数か月程度はかかります。スマートフォンからの誹謗中傷の場合には、アクセスログの保存期限が3か月程度しかないものも多く、投稿日から時間が経てば経つほど投稿者の情報が消去されてしまうリスクが高くなるのです。したがって、発信者情報開示請求は急いで手続きをしなければならないのです。

  3. (3)格安スマホからの書き込みの場合は再度開示請求が必要

    最近は格安スマホを使っている方も少なくありません。格安スマホの回線は、大手通信会社の回線を借りて運営されています。そのため、IPアドレス開示請求でプロバイダが判明しても、判明したプロバイダが、実は大手通信会社の回線を借りている格安スマホの会社であったというケースも考えられます。その場合は、大手通信会社に対してさらに「IPアドレス開示請求」を行う必要があるので、さらに時間がかかることになります。

3、発信者情報開示請求における訴訟以外の方法とは

開示される可能性は低くなりますが、以下の3つの方法で発信者の情報開示を要求することもできます。

  1. (1)メールなどでの任意開示請求

    まず、メールなどで任意開示請求をする方法です。任意開示請求は法的な強制力がなく、プロバイダが投稿者に意見照会をして、同意が得られなければ開示はされません。そのため、あまり効果は期待できないものと考えられます。

  2. (2)プロバイダ責任制限法ガイドラインに基づく任意開示請求

    プロバイダ責任制限法ガイドラインに基づいて、任意で開示請求する方法もあります。「プロバイダ責任制限法 関連情報Webサイト」にある「発信者情報開示関係書式」を使って文書で開示請求を行うものです。このフォーマットに必要事項を記入して、個人であれば身分証明証、法人であれば資格証明書を添付して郵送します。しかし、開示についての法的拘束力はなく、開示をするか否かは投稿者やプロバイダの意向に左右されるため、あまり効果があるとはいえないのが実情です。

  3. (3)弁護士会照会(23条照会)

    また、「弁護士会照会(23条照会)」を利用する方法もあります。弁護士には、弁護士会を通じて受任した事件に関係する法人や団体に対して必要な情報を照会することが認められているのです。これを弁護士会照会といいます。弁護士会照会は弁護士法23条の2に定められているため、23条照会とも呼ばれます。

    弁護士会照会への回答は公的義務とされていますが、開示に対する強制力や協力しなかった場合の罰則はないため、照会先の対応次第です。ただし、たとえば発信者情報開示請求の結果、発信された場所がネットカフェだった場合、弁護士会照会を行うことでネットカフェ側が協力してくれることもあります。

4、弁護士に依頼するべき理由

発信者情報開示請求は、裁判所での専門的な手続きが必要な上、スピードも要求されます。アクセスログが消去されないうちに投稿者の情報の開示を受けられるよう、できるだけ早く弁護士に相談するのをおすすめします。
本章では、その理由についてお伝えしましょう。

  1. (1)刑事告訴や損害賠償など、どのような対応策がとれるか判断できる

    投稿によって著しく名誉を傷つけられた、営業妨害されているといったことがあれば、刑事告訴ができるかもしれません。また、なんらかの実害があれば損害賠償請求も検討可能です。しかし、どのような投稿であれば刑事告訴ができるのか、あるいは損害賠償請求ができるのか、一般の方には判断が難しいものです。

    弁護士であれば、投稿内容がどのような権利を侵害しているのか、刑事告訴や損害賠償請求ができる事案なのかどうかを判断できます。また、損害賠償請求の方法や金額のおおよその相場などについても、アドバイスを受けることができるでしょう。

  2. (2)証拠集めなどの具体的なアドバイスがもらえる

    刑事告訴するにせよ、損害賠償請求をするにせよ、客観的な証拠が必要です。投稿内容をURLが分かる形でスクリーンショットを撮ったり印刷したりするなどして保存することはもちろんですが、投稿の結果どのようなことが起きたかを記録しておくことも重要です。たとえば、投稿をきっかけにうつ病になったのなら医師の診断書、売り上げが落ちたのなら売り上げ推移のデータなどを提出します。
    投稿内容との因果関係を示すことも非常に重要なので、どんな証拠をそろえれば法律の要件を満たすのかについて、弁護士からアドバイスを受けると良いでしょう。

  3. (3)仮処分・訴訟手続きを円滑に進めることができる

    投稿者の情報を得るためには、仮処分や本案訴訟といった裁判所での手続きが必要です。特にスマートフォンでのアクセスログの保存期間は約3か月と非常に短い場合が多いため、手続きをスピーディーに行わなければなりません。裁判手続を円滑に進めるためには、弁護士に依頼するのが良いでしょう。

  4. (4)個人では難しい外国法人への開示請求も可能になる

    5ちゃんねる(2ちゃんねる)やTwitter、Facebookは、外国法人が運営しています。外国法人を相手にする場合、その法人の資格証明書を海外から取り寄せる等、日本法人に対する場合よりも手続きが複雑かつ煩雑になります。弁護士を通じて行ったほうが適切に進むでしょう。

5、まとめ

発信者情報開示請求はとにかくスピードが問われます。アクセスログの保存期間も短いため、特に投稿日時から2か月以上経ってしまっているものは開示請求が難しくなるリスクがあります。

自分や自社を誹謗中傷する投稿を見つけたら、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。投稿者に刑事責任や民事責任を問えるかどうか、発信者情報開示請求が間に合うかどうかを弁護士が判断し、アドバイスをします。ひとりで悩まず、ベリーベスト法律事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。

この記事の監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

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※記事は公開日時点(2021年05月28日)の法律をもとに執筆しています

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