弁護士コラム

この記事の
監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
  • 誹謗中傷・風評被害
    法人
    2023年04月05日更新
    誹謗中傷はどこから告訴できる? 法律上の定義と炎上させない対処法

    誹謗中傷はどこから告訴できる? 法律上の定義と炎上させない対処法

    インターネット上の誹謗中傷は、個人・事業者を問わず、ターゲットになった方に被害を与える行為であることは周知のとおりです。

    誹謗中傷の投稿は、刑法・民法によって規制されており、刑事罰や損害賠償などの対象となる可能性があります。もし誹謗中傷の被害を受けた場合には、速やかに弁護士にご相談のうえで、法的措置をご検討ください。

    今回は、誹謗中傷に関する法規制の内容や、被害者がとり得る法的措置などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
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1、誹謗中傷とは?

一般に「誹謗中傷」とは、他人に対して精神的なダメージを与えたり、社会的な信用を傷つけたりするような言動を意味します。たとえば、無根拠に相手のことを批判したり、嫌がらせ目的で悪口を浴びせたりすることが「誹謗中傷」の典型です。

誹謗中傷の言動は、有名人や成功者に対するねたみや、気に入らない人への嫌悪の感情などに基づいて行われる場合もあれば、個人的な正義感を背景として行われる場合もあるでしょう。

しかし、どのような理由によるとしても、理不尽に相手を傷つけるような言動をすることには、倫理的な問題があることは言うまでもありません

また近年では、SNS上で誹謗中傷の投稿を「再投稿」(リツイート・リグラム・リポスト)する行為も問題視されています。

元の投稿が誹謗中傷に当たる場合、再投稿は誹謗中傷を助長するため避けるべきです。
SNS上での再投稿を行う際には、元の投稿が誹謗中傷などの問題を含んでいないかをよく確認・検討しなければなりません。

2、誹謗中傷に関する法規制

誹謗中傷に対しては、刑法・民法のそれぞれにおいて、厳格な法規制が設けられています。

  1. (1)刑法上の規制|名誉毀損罪・侮辱罪

    刑法では、誹謗中傷は「名誉毀損罪」(刑法第230条第1項)または「侮辱罪」(刑法第231条)として処罰される可能性があります。

    名誉毀損罪の法定刑は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」、侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」です。特に名誉毀損罪の法定刑は重くなっており、捜査機関に逮捕・起訴される可能性も大いにあります。また、近時、侮辱罪の法定刑を引上げについても議論がなされており、侮辱罪についても、今後厳罰化する可能性があります。

    インターネット上に誹謗中傷の投稿をしてしまうと、刑事処分を受けて前科が付き、後の人生に大きな悪影響を及ぼしてしまうかもしれません。
    軽い気持ちで他人の悪口などを投稿することがないように、投稿前には内容を十分確認することが大切です

  2. (2)民法上の規制|不法行為

    さらに、誹謗中傷の投稿をした場合、被害者から不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。

    誹謗中傷に関する損害賠償額は、慰謝料だけで数10万円から100万円以上になることもあります。
    営業上の損害を与えた場合などには、さらに巨額になることが想定されます。

    もし誹謗中傷の投稿に起因して、経済的・精神的な損害を受けた場合には、弁護士にご相談のうえで損害賠償請求をご検討ください

3、誹謗中傷はどこから違法になるのか?

名誉毀損罪・侮辱罪や不法行為に当たる誹謗中傷と、表現の自由によって認められる言動の間は、どのように区別されるのでしょうか。

名誉毀損罪・侮辱罪の成立要件や、名誉毀損による不法行為が問題となった裁判例から検討してみましょう。

  1. (1)名誉毀損罪・侮辱罪の成立要件

    名誉毀損罪は、以下のすべての要件を満たす場合に成立します。

    <名誉毀損罪の成立要件>
    ① 公然と発言したこと
    不特定または多数の人に伝わる形で発言がなされたことが要件となります。

    ② 事実を摘示したこと
    具体的な事実を摘示した発言であることが要求されます。

    ③ 他人の名誉を毀損したこと
    他人の社会的評価を下げるような言動であることが要求されます。
    なお、実際に社会的評価が下がったかどうかは問われません。

    ④ 公共の利害に関する場合の特例に該当しないこと
    ①②③を満たしていたとしても、以下の要件をすべて満たす場合は、名誉毀損罪が不成立となります。
    • 摘示された事実が、公共の利害に関するものであること
    • 事実を摘示した目的が、専ら公益を図ることにあったと認められること
    • 摘示された事実が、真実である旨の証明があったこと
    なお、摘示された事実が真実であると誤信した場合には、誤信したことについて、確実な資料・根拠に基づき相当な理由があるときに限り、名誉毀損罪の故意がないものとして、処罰されないことになります。


    これに対して侮辱罪は、以下の要件をすべて満たす場合に成立します。

    <侮辱罪の成立要件>
    ① 公然と発言したこと
    名誉毀損罪と同様に、不特定または多数の人に伝わる形でなされた発言であることが必要です。

    ② 他人に対する侮辱的価値判断を示したこと
    名誉毀損罪と同様に、他人の社会的評価を下げるような言動であることが必要です。

    ③ 事実の摘示がないこと
    事実の摘示がある場合には、名誉毀損罪の問題となります。
  2. (2)名誉毀損が問題となった裁判例

    名誉毀損による不法行為に基づく損害賠償請求について、認容された裁判例と棄却された裁判例をそれぞれ見てみましょう。

    <名誉毀損が認められた裁判例:大阪地裁 平成29年8月30日 判決>
    被告が原告になりすまして、他者を侮辱するような内容の投稿を複数回にわたって行い、原告の社会的評価を低下させたとして、名誉権侵害が認められました。

    被告が原告を直接誹謗中傷したわけではありませんが、不法行為の場合には、このような間接的な名誉権侵害も認められる可能性があります。


    <名誉毀損が認められなかった裁判例:最高裁 令和元年7月16日 判決>
    Googleの検索結果において、原告(会社)とその代表取締役が詐欺商材の販売を行っているとの事実が摘示されていたため、原告がGoogle社に対して検索結果の削除を求めました。

    第一審は、当該検索結果が、原告の社会的評価を低下させる事実を摘示していることを認めました。しかし、詐欺行為に関する情報は公共の利害に関係しており、私人の名誉権に優先することなどを理由として違法性阻却を認定し、原告の請求を棄却しました。

    控訴審も基本的に第一審の判断を支持し、最高裁でも上告棄却・不受理となりました。

4、誹謗中傷の投稿に対する法的措置

ご自身や経営する会社に対する誹謗中傷の投稿を発見した場合は、次の法的措置を講ずることをご検討ください。

  1. (1)投稿削除の仮処分申立て

    誹謗中傷の投稿によって、被害者に著しい損害または急迫の危険が発生するおそれがある場合には、裁判所に投稿削除の仮処分を申し立てることができます(民事保全法第23条第2項)。

  2. (2)投稿者に対する損害賠償請求

    インターネット上での誹謗中傷は不法行為(民法第709条)に当たるため、加害者である投稿者に対して損害賠償を請求することも可能です

    誹謗中傷により被った精神的損害や、社会的信用の低下による経済的な実害を金銭に見積もり、訴訟などを通じて投稿者に請求することになります。

  3. (3)匿名でも「発信者情報開示請求」などの裁判手続きで特定可能

    匿名掲示板やSNSの匿名アカウントで誹謗中傷の投稿がなされた場合でも、「発信者情報開示請求」や「発信者情報開示命令」のプロバイダ責任制限法で規定された法的手続きを行えば、投稿者を特定することが可能です。

    どちらの手続きも、サイト管理者やインターネット接続業者に対して、投稿者の個人情報や、投稿者が使用している端末のIPアドレスなどの開示を請求するものです。それぞれの手続きの流れと違いは以下の通りです。

    フロー図

    一見、裁判所に対する仮処分申立てや発信者情報開示請求訴訟など裁判所を通じた手続きを複数回行うケースが多い発信者情報開示よりも、1回の裁判手続きで完結するとされている発信者情報開示命令のほうがよいような気がするかもしれません。しかし、実務上だけでいえば、そうとは限りません。どちらの手続きが適しているかについては、投稿されたサイトなど個別的事案によって異なります。

    ネット上の誹謗中傷への対応について知見が豊富な弁護士に相談してから決定することをおすすめします。

5、誹謗中傷に対する法的措置が難しい場合の対応

ご自身や経営する会社の評判を傷つけるような投稿であっても、そのすべてが違法な誹謗中傷に当たるわけではありません
また、犯罪や不法行為に当たる誹謗中傷であっても、コストなどとの兼ね合いで、法的措置を講ずることが難しいケースもあるでしょう。

このような場合には、以下の対応をとることが考えられます。

  1. (1)返信をするときの注意点

    ご自身や経営する会社への批判的な投稿に対しては、建設的な反論を返信すれば、名誉を回復できる場合もあるかもしれません。
    しかし、一方で、返信行為自体によって投稿者が重ねて誹謗中傷を行ったり、新たな誹謗中傷を招いたりする等、炎上してしまうリスクもあります。
    このように、返信には非常に慎重な判断が求められますので、返信する前に弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

  2. (2)対応せずに静観する

    インターネットユーザーは、ネット上に投稿されているすべての投稿を真に受けるわけではありません。

    そのため、不合理で信ぴょう性のない投稿であれば、あえて相手にせずに静観することもひとつの手段です。
    時間がたてば、そのような投稿は忘れ去られていくでしょう。

  3. (3)プロバイダに送信防止措置を請求する

    投稿削除に向けた行動としては、サイト管理者に対して「送信防止措置」を請求することも考えられます(プロバイダ責任制限法第3条)。

    送信防止措置を請求することで、サイト管理者は、自主的に投稿の削除に向けたアクションを取ることも多いです。

    送信防止措置の請求に関して、わからないことがあれば弁護士にご相談ください。

6、まとめ

誹謗中傷の投稿は、名誉毀損罪や侮辱罪、または民法上の不法行為に当たる可能性があります。

どこまでが正当な言論で、どこからが違法な誹謗中傷なのかの区別については、表現の自由が関係する難しい問題です。弁護士にご相談いただければ、裁判例などを踏まえて、判断基準や対処法をアドバイスいたします。

ベリーベスト法律事務所は、誹謗中傷の被害者の方のために、随時法律相談を承ります。
ネット誹謗中傷の被害について、刑事告訴や損害賠償請求をご検討中の方は、お早めにベリーベスト法律事務所へご相談ください。

この記事の監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
インターネット上の誹謗中傷や風評被害などのトラブル対応への知見が豊富な削除請求専門チームの弁護士が対応します。削除してもらえなかった投稿でも削除できる可能性が高まります。ぜひ、お気軽にご相談ください。

※記事は公開日時点(2023年04月05日)の法律をもとに執筆しています

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