弁護士コラム

この記事の
監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
  • その他
    個人
    2023年01月12日更新
    開示命令とは何か。手続きの流れや開示請求との違いを解説

    開示命令とは何か。手続きの流れや開示請求との違いを解説

    SNSで誹謗中傷や名誉毀損(きそん)を受けていて、加害者に損害賠償を請求するというときには、まずは加害者の身元を特定しなければなりません。

    ネット上の加害者の身元を特定する方法としては、従来、開示請求という方法がありましたが、時間がかかるといったデメリットがあったため、令和4年10月に、開示命令という裁判手続きが新設されました。開示命令では、誹謗中傷している相手の情報を知るための手続きが簡略化・迅速化されるなど、従来の手続きに比べて被害者の負担が軽減されています。

    この記事では、開示命令の成立背景や手続きの方法、従来からある開示請求との手続きの違いや使い分け方などを、弁護士が解説していきます。
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1、開示命令とは何か

  1. (1)開示命令が作られた背景

    従来、ネット上の加害者の身元を特定するためには、開示請求という手続きをとる必要がありました。

    開示請求では、サイト管理者とプロバイダそれぞれに対して、最低でも合計2回の裁判手続きをとらなければなりませんでした。

    また、相手の身元が特定できるまでに1年前後かかるケースが多く、その間に、割り当てられたIPアドレスなど必要な通信記録が消去されてしまい、加害者を特定することが物理的に不可能になってしまうということもありました。

    このように、開示請求では、手間や時間の点で被害者の負担が大きかったため、この負担を軽減して迅速さを実現すべく、新たに開示命令という制度が創設されるに至りました。

  2. (2)開示命令とはどのような手続きか

    開示命令の手続きは、非訟事件という通常の訴訟(訴訟事件)とは異なる手続きによって進められます。

    非訟事件は、訴訟事件のように当事者対立構造(対審構造)のもとで公開の口頭弁論を行うのではなく、非公開で進められ、必ずしも口頭弁論(審問)を開かなければならないわけでもありません。

    また、これまで別々に裁判手続きをとる必要のあった

    • ① サイト管理者に対する開示請求
    • ② プロバイダに対する開示請求
    • ③ 審理が終わるまでのログなどの消去禁止請求

    などの各手続きを、ひとつの裁判手続きの中でまとめて審理することができるようになりました

    これらのことにより、開示命令手続きでは、数週間から数か月で審理を終えることができると見込まれています。

    開示命令が出れば、被害者は、加害者が違法な投稿を行った際に割り当てられたIPアドレス、タイムスタンプ(通信の行われた日時)、加害者の氏名・名称・住所などのほか、ログイン型サービスの場合には、ログイン・ログアウト時や、アカウント作成・削除時の接続情報、個々の投稿時の接続情報などを知ることができます。

    違法な投稿が掲載されたウェブページのURLすべてを表示したうえでスクリーンショットを撮り証拠を確保しておくなど、開示命令を申し立てる前の事前準備が重要であることは、従来の開示請求と同じです。

2、開示命令が出た後の流れ

開示命令が出た後は、弁護士と相談し、加害者に何を請求するのかを決定することとなります。
相手に資力がなければ、損害賠償請求訴訟を提起して勝訴しても賠償金を回収できないこともありますので、事案に応じた適切な方法を選択する必要があります。

この章では、開示命令が出た後の方法についてお伝えします。

  1. (1)損害賠償請求

    損害賠償を請求する場合、加害者を被告として、名誉毀損・人格権(プライバシー権)侵害を理由とする損害賠償請求訴訟を提起することが考えられます。

    請求する損害には、違法な投稿による精神的苦痛等に対する慰謝料、加害者を特定するための調査にかかった費用、弁護士費用などを含めることが可能です。

  2. (2)交渉・示談

    訴訟以外にも、交渉や和解(示談)による解決を目指す方法も考えられます。

    交渉や和解の場合には、訴訟よりも短期間での解決を期待することができますし、判決のように金銭の支払いを命じるだけでなく、示談書の中で謝罪の意思を表明させたり、今後は違法な投稿を行わないことを誓約させたりするなど、柔軟な解決も可能となります。

    相手方(加害者)の態度や事案の内容によって、どの方法を選択すべきかが異なりますので、ネットトラブルの経験が豊富な弁護士にご相談なさることをおすすめします。

  3. (3)被害届の提出、告訴

    違法な投稿をした加害者は、民事上で損害賠償の責任を負うだけでなく、刑事上の罰則を受ける可能性もあります。

    警察も、サイバーパトロールを行って取り締まりを進めていますが、検挙に至ることはまれであり、刑事事件としての立件を希望するのであれば、被害届の提出や告訴を行うべきです。

    被害届の提出や告訴によって刑事事件として立件されれば、加害者は、刑事手続き上の被疑者として取り調べなどを受け、最終的には、検察官による起訴不起訴の判断を受けます。
    起訴されて有罪判決を受ければ前科が付くこととなりますし、不起訴となった場合でも、前歴が残ることになります。

    違法な投稿が該当する可能性がある犯罪と罰則は、次の表のとおりです。


    罪名 罰則
    名誉毀損罪(刑法230条1項) 3年以下の懲役・禁錮
    50万円以下の罰金
    侮辱罪(刑法231条) 1年以下の懲役・禁錮
    30万円以下の罰金
    拘留
    科料
    威力業務妨害罪(刑法234条、233条) 3年以下の懲役、50万円以下の罰金

3、開示命令と開示請求、どちらを使うべきか。

  1. (1)開示請求とは何か

    すでにお伝えしましたが、開示請求では、少なくとも2つの裁判手続きをとる必要があります。

    開示請求で必要となる2つの裁判手続きについて、それぞれ概要をご紹介します。

    ① IPアドレスの開示仮処分
    サイト管理者を相手方(債務者)として、違法な投稿を行う際の通信に割り当てられたIPアドレスの開示仮処分を申し立てる手続きです。
    この手続きを行うことで、加害者が利用(契約)しているプロバイダを知ることができます。

    ② 加害者の氏名・住所などの開示請求訴訟
    加害者が契約しているプロバイダに対して、仮処分で開示を受けたIPアドレスを利用した者の氏名・住所などの開示を求める訴訟を提起する手続きです。
    これによって、加害者の身元を特定することができ、損害賠償請求訴訟の提起が可能となります。
  2. (2)それぞれが役立つ場面(使い分け)

    開示命令が創設された令和4年10月以降も、従来の開示請求が残されることとなり、被害者は、開示命令と開示請求どちらの手続きをとるのかを選択することができるようになりました。

    そこで、それぞれの手続きが役立つ場面や使い分けについて、ご紹介します。


    • 開示命令
    • 開示命令は、開示が認められる要件に該当することが明らかであるなど、当事者間の対立がそれほど大きくない事案で、簡単な手続きで早く相手の情報が分かるようにした手続きです。
      訴えによって、プロバイダがすぐ情報開示するだろうと見込まれる事件では、開示命令を使いましょう

    • 開示請求
    • 開示命令は、被害者にとっては簡易迅速で便利な手続きですが、加害者にとっては手続保障が十分といえない点もあることから、加害者は、裁判所の決定に不服があれば、異議の訴えを行うことができます。
      異議の訴えがなされれば訴訟に移行しますので、開示命令手続きを選択したことで、かえって審理期間が長引いてしまうことにもなりかねません。
      そのため、プロバイダが開示を強く拒んでいるといった事情があるケースは、開示命令ではなく、開示請求を選択するべきであるといえます

4、弁護士に相談するべき理由

  1. (1)裁判所に提出する書類や証拠を間違いなく準備できる

    開示命令と開示請求のいずれであっても、それぞれの手続きによって必要な書類が異なりますし、どの裁判所に書類を提出するべきかという管轄などについては、専門的な知識が要求されます。

    発信者情報の開示と併せて、違法な投稿の削除請求やログなどの消去禁止請求も求める場合には、それへの対応も別途必要です。

    弁護士に相談すれば、過不足なく書類を準備し、スムーズに裁判手続きを利用することができ、適正な審理を期待することができます。

  2. (2)加害者への請求内容についての相談にのれる

    加害者を特定できた後には、事案に応じた適切な請求内容を定め、交渉・示談、訴訟、告訴などの中から、実現したい請求内容に応じた方法を選択しなければなりません。

    この点についても、削除請求や発信者情報開示の経験が豊富な弁護士であれば、事案に応じた適切な解決方法を提案し、依頼者をより良い解決へと導くことができます。

  3. (3)交渉から裁判まで代理人となれる

    弁護士であれば、依頼者の代理人となり、複雑で難解な裁判手続きをすべて代わりに行うだけでなく、加害者との交渉・示談などもすべて、依頼者に代わって行うことができます。

    誹謗中傷や名誉毀損に当たる投稿がネット上で炎上・拡散するだけでも精神的な負担がある中で、さらに裁判手続きの負担まで生じることとなれば、被害者の負担はかなりのものとなります。

    紛争の解決はすべて弁護士に任せれば、早期に日常生活を取り戻すことが可能です。

5、まとめ

開示命令が創設されたことにより、違法な投稿の被害者は、これまでよりも簡易迅速に加害者を特定できるようになりました。

加害者を特定できれば、事案に応じて、損害賠償、交渉・示談、告訴などの対応をとることができます。
従来の開示請求手続きも残されていますので、事案の内容や状況に応じて、開示命令と開示請求を使い分け、適正な解決を目指すこととなります。

名誉毀損や誹謗中傷などにネット上のトラブルにお悩みの場合には、ベリーベスト法律事務所にぜひご相談ください。

この記事の監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
インターネット上の誹謗中傷や風評被害などのトラブル対応への知見が豊富な削除請求専門チームの弁護士が対応します。削除してもらえなかった投稿でも削除できる可能性が高まります。ぜひ、お気軽にご相談ください。

※記事は公開日時点(2023年01月12日)の法律をもとに執筆しています

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