弁護士コラム
まず、刑法上の名誉毀損罪が成立する要件を確認した上で、名誉毀損に該当する書き込み、該当しない書き込みの具体例を知っておきましょう。
刑法 第230条第1項
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀(き)損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法230条では、以下の要件を満たした場合に、名誉毀損罪が成立すると規定しています。
●公然と
「公然と」とは、摘示された事実を不特定または多数の人間が認識できる状態をいいます。
誰でも見ることのできる掲示板やブログはもちろんですが、特定の人しか閲覧できないように設定されているTwitterやFacebookなどのSNSなどであっても、人づてに書き込まれた事実が多数の人に伝わる可能性があれば「公然と」に該当する可能性があります。
●事実を摘示し
ここでいう「事実」とは、人の社会的な評価を低下させるような具体的な事実をいいます。
人格にかかわる事実だけでなく、病歴や性生活等プライバシーに属する事実も含まれると解釈されており、インターネット上匿名で活動している人の実名を公開することも該当し得ます。
また、基本的には、示されている事実が虚偽か真実かは問題になりません。たとえば、「○○は、痴漢で逮捕されたことがある」という書き込みは、たとえそれが真実であったとしても人の社会的な評価を低下させる具体的な事実にあたります。
●人の名誉を毀損
「名誉」とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のこととされています。
人の名誉を毀損する書き込みが公開された時点で「毀損した」ことになるため、実際にその人の社会的価値が低下したかどうかは問題になりません。
●故意
刑法上、名誉毀損罪が成立するためには、上記の内容をわざと書き込んだことが必要です。
●違法性阻却事由がないこと
刑法上の名誉毀損罪の成立には、上記4つの要件を満たしている必要があります。
もっとも、憲法21条で認められた表現の自由や知る権利との調和を図るため、以下の要件をすべて満たしたときには、名誉毀損罪は成立しないとされています(刑法230条の2)。
〇「公共の利害に関する事実」
市民が民主的自治を行う上で知る必要のある事実をいいます。まだ起訴されていない犯罪行為に関する事実は公共の利害に関する事実とみなされ、公務員、政治家に関する事実は、真実であれば処罰されません。
それ以外にも、社会的な影響力のある立場にある人物に関する事実については、公共の利害に関する事実に当たる可能性が高いでしょう。
〇「目的が専ら公益を図ること」
主たる目的が公益目的であることが必要です。
一般大衆の興味や好奇心を満たすため、あるいは、本人の私怨を晴らすためであるとすると、公益目的とはいえません。
〇「真実であることの証明」
書かれた事実が真実であることが必要です。
また、真実でなかったとしても、当該事実を真実であると信じるだけの十分な根拠があり真実であると信じてしまってもおかしくないといえる場合には、名誉毀損罪は成立しません。
次に、刑法上の名誉毀損罪に該当する場合、しない場合の具体例を確認していきましょう。
これらの内容が、誰を主語としているのかを特定できる場合には、刑法上の名誉毀損罪に該当する可能性があります。
「馬鹿」としか書かれておらず、馬鹿であることの根拠を示すような具体的な事実が示されていない場合には、名誉毀損罪の構成要件である「事実」が示されたとはいえません。
また、政治家の贈収賄に関する事実は公共性・公益目的があるとされているため(刑法230条の2第3項)、書き込まれた内容が真実である場合には名誉毀損罪は成立しません。
刑法 第231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
具体的な事実が書かれていない場合、侮辱罪が成立する可能性があります。
刑法 第233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
支払能力や商品の品質・効能など、経済的側面における人の社会的評価について、真実に反する噂・情報を流された場合には、信用毀損罪や業務妨害罪が成立する可能性があります。
名誉毀損が成立する場合、書き込みをした相手は刑事罰を受ける可能性があり、その相手に対して民事上の責任を負わせることができます。
書き込みをした相手を告訴し刑事罰を科すことは、最も強力な再発防止手段といえます。
相手が誰なのかを特定する前に告訴や被害届を提出することは可能ですが、犯人を特定してからのほうが警察に動いてもらいやすいようです。
事前に証拠資料を収集する必要がある場合もあります。告訴状を提出する前に、所轄の警察署に相談するか、インターネットにおける名誉毀損事件を手掛けている弁護士に相談してみるとよいでしょう。
民法709条、710条を根拠に、名誉を毀損する書き込みをした相手に不法行為責任を問うことができます。基本的に、書き込みが原因で金銭的な実害を被っている場合には損害額を、精神的苦痛に対しては慰謝料等を請求することになるでしょう。
名誉毀損で刑事罰を科すためには、具体的な事実が示されていることが必要でした。
他方、民事では、具体的な事実を示すことのみならず、その人の社会的評価を低下させるような意見や論評を書き込んだ場合にも、名誉毀損として不法行為責任を問うことができる可能性があります。
また、刑事罰を科すためには、わざと書き込みをしたことが必要ですが、民事上の責任を問う場合には、過失による行為も対象となりえます。
名誉毀損に該当する書き込みをした相手に慰謝料を請求する方法を解説します。
まずは、問題となっている書き込みを証拠として保存しなければなりません。該当する書き込みのあるページだけでなく、ページのURLや書き込みをした日時も確認できる方法で証拠を保存してください。
慰謝料を請求した途端、相手が支払いを免れるために当該書き込みを削除する可能性もありますから、証拠の保存はできるだけ早く行った方がよいでしょう。
発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法4条1項に基づいて、書き込みをした人物の情報を開示するようプロバイダに求める手続きです。
プロバイダに任意で情報の開示を求めることも可能ですが、プロバイダの多くは、個人情報保護の観点から情報の開示に積極的ではないため、多くのケースでは裁判上の手続きを行うことになります。
名誉毀損を理由に発信者情報開示を求める際の要件は、以下のようになります。
書き込みをした人物の特定ができたら、多くのケースでは、まず、慰謝料請求を内容とする書面を送付することになるでしょう。相手が慰謝料の支払いに応じるようであれば良いのですが、支払いに応じない場合には、訴訟を起こすことも視野に入れて交渉をしていくことになります。
名誉毀損を理由とする慰謝料請求訴訟では、数十万円から100万円程度の金額が認められている例が多いようです。また、書き込みをした相手を特定するために要した弁護士費用についても、多くの裁判例で認められているようです。
インターネットにおける名誉毀損を理由に慰謝料請求をするためには、法的知識が必要です。迅速かつ的確に事態の収束を目指すなら弁護士に相談することをおすすめします。
インターネット上で、悪質な書き込みを見つけたときは、感情的に反論したり仕返しをしたりするのではなく、冷静に法的措置について検討しましょう。正当な方法で書き込みの削除を求めたり、書き込みをした相手を特定して慰謝料を請求したり、刑事告訴したりすることができる可能性があります。
ベリーベスト法律事務所では、インターネット上の名誉毀損事件について幅広くご依頼を受けております。まずはお気軽にご相談ください。
※記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています