弁護士コラム

この記事の
監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
  • 誹謗中傷・風評被害
    個人
    2022年12月15日更新
    ネットの書き込みで精神的苦痛を受けた! 削除や慰謝料請求は可能?

    ネットの書き込みで精神的苦痛を受けた! 削除や慰謝料請求は可能?

    誹謗中傷を受けた当事者は心に深い傷を負ってしまいます。ネットで長期間・断続的に誹謗中傷を受けたことで「複雑性PTSD」に陥ったケースが注目されたように、精神的な苦痛が身体の健康にも害をおよぼす事例は少なくありません。

    精神的苦痛を解消するには、原因となった誹謗中傷の削除が必要です。また「仕事に行きたいのに怖くて外に出られない」などの状況があれば、加害者に対して慰謝料などの賠償金を求めたいと考えるのも当然でしょう。

    本コラムでは、ネットの書き込みによって精神的苦痛を受けたことを理由に、投稿の削除や慰謝料請求が認められるのかを解説します。
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1、ネット上の悪口や暴言を受け体調を崩したらすべきこと

SNS・ネット掲示板・ブログなど、ネット上で悪口や暴言、デマなどが投稿されると、想定外に広く拡散されてしまい、取り返しのつかない状態に発展することがあります。「みんなに知れ渡っている」「たくさんの人から笑いものにされている」といった心理状態に陥ってしまうと、精神だけでなく身体の不健康も招いてしまうでしょう。

ネット上の誹謗中傷が原因で体調不良を起こしてしまった場合、まず優先すべきは「健康を取り戻すこと」です。

  1. (1)何よりも通院・治療が最優先

    健康を害してしまったとき、何よりも優先すべきは専門医の診断を受けたうえで通院・治療に取り組むことです

    誹謗中傷を解決するための法的手続きには多大なスタミナが必要となります。身体の健康を取り戻さないと、その後の対応を取る気力も起きなくなってしまうので、まずは治療に専念しましょう。

    また、体調不良に陥っている状態で医師の診断を受けていれば「診断書」の作成を依頼できます。診断書の存否は特に慰謝料請求において重要な証拠となるので、いつでも診断書の交付を求められるように準備しておくことをおすすめします。

  2. (2)悪口・暴言の削除

    ネット上の悪口・暴言は、放置していても消えません。それどころか、面白おかしく拡散されてしまい、関係のない人にまで情報が知れ渡ってしまいます。

    問題の投稿は、投稿者やSNS・掲示板・ブログの管理者にはたらきかけて削除を求める、あるいは法的手続きによって削除させるといった対策が必要です。

  3. (3)刑事告訴や慰謝料請求の検討

    警察が刑事事件として捜査を進めれば、悪質な投稿者には刑罰が科せられます。悪質な誹謗中傷には刑事告訴による対抗も検討する方もいるでしょう。

    他方で、強い精神的苦痛を受けた、多額の治療費を負担した、仕事に行けなくなって収入が減ってしまったなどの損害が生じた場合は、投稿者に対する損害賠償請求が検討できることがあります。

    刑事責任と民事責任はまったく別のものなので、たとえば「刑事告訴したうえで損害賠償も請求する」といった対応を取ることも可能です。

2、刑事告訴を検討すべきケース

悪質な誹謗中傷に対しては刑事告訴を検討することになります。
刑事告訴をすると、相手はどうなるのでしょうか?

  1. (1)犯罪被害があれば刑事告訴が可能

    刑事告訴とは、犯罪の被害者が捜査機関に対して加害者の処罰を求める手続きです。法律上は単に「告訴」といいますが、民事的な訴えと区別するための一般用語として「刑事告訴」と呼ばれています。

    ネット上の誹謗中傷トラブルで刑事告訴が可能となるのは、誹謗中傷の内容が法律で定められている犯罪にあたる場合です

    典型的なものとしては、ここで挙げるような犯罪が考えられます。

    • 名誉毀損罪(刑法第230条)
      公然と事実を摘示して、相手の社会的な評価をおとしめる行為をはたらいた場合に成立します。
    • 侮辱罪(同第231条)
      事実を摘示せず、公然と他人の人格を蔑視する価値判断を表示した場合に成立します。
    • 脅迫罪(同第222条)
      生命・身体・自由・名誉・財産に対する危害を告げる行為があった場合に成立する犯罪です。
    • 強要罪(同第223条)
      危害を告げたうえで、相手に義務のないことをおこなわせると成立します。


    一方で、個人名や住所などを公表する、いわゆる「さらし」と呼ばれる行為は、プライバシー侵害にあたるものの、法律が定める犯罪ではないので刑事告訴できません。

  2. (2)なぜ「刑事告訴」なのか? 「被害届」ではダメな理由

    犯罪の被害に遭ったとき、警察に届け出るものとしてまずイメージするのが「被害届」でしょう。しかし、ネット上の誹謗中傷に厳しい処罰を与えるには、被害届ではなく刑事告訴を選択するべきです。

    なぜ刑事告訴が必要なのか、理由を列挙します。

    • 刑事告訴は「犯人を罰してほしい」という強い処罰意思を示す手続きだから
    • 警察の都合に関係なく捜査義務が生じるから
    • 警察が捜査を遂げた告訴事件は必ず検察官へと送付されるから
    • 名誉毀損罪や侮辱罪は「親告罪」であり、検察官の起訴には刑事告訴が必要だから

3、精神的苦痛を理由に慰謝料請求できる? 相場は?

ネット上の誹謗中傷でひどく心が傷ついてしまった場合は「精神的苦痛を理由に慰謝料を請求したい」と考えることもあるはずです。
慰謝料請求は可能なのでしょうか?

  1. (1)「慰謝料」とはなにか?

    慰謝料とは「精神的苦痛に対する賠償金」を意味します。一般的な「迷惑料」と混同されがちですが、慰謝料を請求できるのは相手に不法行為があった場合です。

    ここでいう不法行為とは、犯罪に該当する行為に限りません。プライバシー侵害などの民事的な権利侵害も対象となります。

  2. (2)ネット上の誹謗中傷を理由に慰謝料を請求できるのか?

    ネット上の誹謗中傷によって精神的苦痛を受けた場合は、慰謝料請求が可能です。ただし、慰謝料請求には「原因事実」と「程度」の証明が求められます

    原因事実とは「同じような行為を受ければ多くの人が強い精神的苦痛を感じるだろう」というかたちを証明することです。この点は、刑事告訴が可能な状況なら、特に問題にはならないでしょう。

    問題となるのは「程度」です。原因事実が起きた時期に、どの程度の精神的苦痛が存在していたのかを客観的に証明しなければなりません。ところが、精神的苦痛は内心の問題であり、程度をあらわすのは困難です。医師が作成した診断書が存在しなければ、程度の証明は難しいでしょう。

  3. (3)慰謝料額に相場はない

    慰謝料は精神的苦痛の程度によって増減するため、一律のような相場は存在しません。ただし、高額の請求が叶う可能性はあまり高くないと心得ておいたほうがよいでしょう。

    名誉毀損罪の刑罰は3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金、侮辱罪では、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です(ただし令和4年7月6日以前の書き込みの場合は、拘留または科料)。必ずしも、法律で定められている刑罰と慰謝料額が連動するわけではありませんが、悪質性や権利侵害の強さには原因となる犯罪の軽重が影響するため、数百万円単位の慰謝料請求は難しいと考えられます。

    高額の慰謝料が得られる期待が薄い場合は、弁護士に依頼すると弁護士費用のほうが高くなってしまうケースもあるので、十分な検討が必要です。

4、問題発言の削除や相手の特定は弁護士に相談すべき理由

誹謗中傷にあたる問題発言の削除や、その問題発言を投稿した加害者の特定を個人で対応するのは難しいでしょう。
解決を期待するなら弁護士のサポートが必須です。

  1. (1)なぜ「削除」が必要なのか?

    ネット上に誹謗中傷にあたる情報が掲載されると、その情報を閲覧したユーザーがリプライすることでほかのユーザーへと拡散されてしまいます。5ちゃんねるをはじめとした掲示板サイトには、同じ情報を自動または手作業で転載するミラーサイトも存在しているため、そのまま放置していると被害が広がってしまうでしょう。

    問題発言の削除には以下の通り、書き込まれたサイトごとに方法が異なります。

    • 投稿者に連絡して削除してもらう
    • SNS・掲示板・ブログの運営者に通報して削除してもらう
    • 送信防止措置請求によって削除してもらう
    • 裁判所に仮処分を申し立てて削除してもらう


    投稿者や運営者への連絡・通報では削除をしてもらえない場合は、裁判所の仮処分といった法的措置によって強制的に削除させることになります。

  2. (2)なぜ「加害者の特定」が必要なのか?

    ネット上の投稿は、アカウント名やユーザーネームが使用されています。たとえ本名らしき氏名を使っていても「なりすまし」のおそれもあるので、実際にどこの誰が投稿したのかはわかりません。あなたが、特定の個人を犯人だと考えていても、実際は異なる場合があるのです。

    したがって、加害者を特定していないと、損害賠償請求ができません。さらに、開示請求の対象となるIPアドレスは、時間がたつと消えてしまいます。そのため、加害者を特定し、損害賠償請求するためにも、犯人の証拠を残すためにも、早急に動き出す必要があります。

    ネット上で問題発言を投稿した加害者は「発信者情報開示請求」によって特定が可能です。

    発信者情報開示請求は、SNS・掲示板・ブログの運営者に対するIPアドレスなどの開示請求と、加害者が使用したインターネット回線を提供するインターネットプロバイダに対する契約者情報の開示請求の2段階の手順を経て、ようやく特定できるケースが一般的です

  3. (3)代理人として削除・特定の手続きを代行できるのは弁護士だけ

    削除請求や発信者情報開示請求は、個人で対応すると時間がかかるうえに大変な労力を伴います。手続きに不慣れだと失敗してしまう危険も高いため、経験豊富な弁護士に依頼するのが最善策です

    インターネット上では、削除請求の代行業者や加害者を特定するサービスをうたった業者も見つかります。低料金をうたう業者もありますが、弁護士資格をもたない者がこれらの作業を代行して報酬を得る行為は弁護士法に違反する「非弁行為」です。運営者などから指摘されて削除・特定に失敗したうえで料金の支払いだけを求められる、「追加料金が必要」といわれて多額を支払うことになったなどのトラブルも絶えません。

    削除請求や加害者の特定は、代行業者ではなく弁護士に依頼しましょう。

5、まとめ

ネット上で誹謗中傷を受けて強い精神的苦痛を感じた場合は、投稿者を刑事告訴して刑事責任を追及する、慰謝料の支払いを求めて損害賠償請求を訴えるといった対応が可能です。精神的苦痛が理由で体調を崩してしまった場合は、まずは治療と「どのような被害が生じたのか」の証拠を確保するために専門医による診断を受けましょう。

誹謗中傷にあたる問題発言の削除や加害者の特定には、弁護士のサポートが欠かせません。個人で対応しても時間と労力がかかるばかりで失敗してしまうおそれも高いので、経験豊富な弁護士に相談して助けを求めましょう。

ネット上で誹謗中傷を受けて加害者に慰謝料を請求したいと考えるなら、ネットトラブルへの対応について知見が豊富なベリーベスト法律事務所におまかせください。弁護士・スタッフが一丸となって解決までサポートします。

この記事の監修者
萩原達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
インターネット上の誹謗中傷や風評被害などのトラブル対応への知見が豊富な削除請求専門チームの弁護士が対応します。削除してもらえなかった投稿でも削除できる可能性が高まります。ぜひ、お気軽にご相談ください。

※記事は公開日時点(2022年12月15日)の法律をもとに執筆しています

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